同期の営業課長から、上司がマーケティングに凝ってるようで
“ドメイン”って何か知ってるか?と相談がありました。
初めて聞いたのですが、ドメインってなんでしょう?
“ドメイン”を簡単に言うと企業の方向性、事業の方向性など、
方向性のことと思って良いですよ。
企業がどういった領域で事業を展開し、活動していくかという”事業領域”、これを”ドメイン”と言います。このドメインを定義することにより、その企業が向かうべき方向が示されます。
企業として将来向かうべき方向性を定めたものを”企業ドメイン”、それを実現するための個々の事業をどう方向付けるかが”事業ドメイン”です。
そして、ドメインを定義することはその企業のアイデンティティ(コーポレート・アイデンティティ)を規定することにもなります。
コーポレート・アイデンティティについては、こちらの記事でも紹介しています。⇩
エイベルの”ドメイン”理論
エイベルは、次の3つの軸に類型化してドメインを定義しています。
- 顧客層(WHO)…その事業の恩恵を受ける顧客は?
- 機能(WHAT)…その顧客層が求めるニーズは?
- 技術(HOW)…そのニーズに応えるための技術として必要なものは?
これらの観点を用いて自社のドメインを定義していきますが、顧客層だけ、機能だけというような一面だけでドメインを定義していくと、注力する範囲が広すぎて抽象的になってしまいますから、適切な方向を示すことが難しくなります。
そのため、これらすべてを使って定義をすることが重要だと説いており、そのことから、”エイベルの三次元ドメイン理論”とも言われています。
”誰に”、”何を”、”どのように”
ようするに、自社商品やサービスを顧客のどういった
要望をターゲットとして提供するのかを具体的に
掘り下げるのがドメインの定義です!
“ドメイン”定義の失敗例
有名なのは、多くの書籍やサイトで紹介されている”アメリカの鉄道会社の衰退”があります。
事業領域を「鉄道事業」と定義しており、自動車や航空機等の他の輸送機関が台頭してきた際にも、ドメインの再定義をせずに、鉄道を走らせるという狭いドメインを維持したことから環境変化に対応できずに衰退してしまったという事例です。
一方で”ドメイン”定義の成功例
接着剤やバネ、ネジといったあらゆる業界で見られるドメインの設定ですが、”川上から川下まで存在感のある部品のプロフェッショナルとして”と定義した事例や、”日本品質を提供するグローバル企業として”と定義した事例などが挙げられます。
顧客層を広く上流から下流までとしたり、グローバル化による横の広がりを再設定したことで、工業用、土木用、建築用などから、家庭用まで幅広い顧客ニーズに対応する事業領域を設定するなど、事業の発展可能性を高めた結果企業規模を拡大させた企業が多くあります。
各社のHPなどで、トップコメントなどを参照してみると、こういったドメインの設定に関する記載があり、その企業が事業をどう拡大してきたかが分かるので面白いですね。
“ドメイン”の定義と影響
失敗例、成功例のように、ドメイン定義の仕方により、企業の運命を左右するような大きな影響を与えます。
そして、定義されたドメインは、「機能的定義」と「物理的定義」に分けて、それぞれのメリット・デメリットを把握することで、適切な設定になっているかを判断する一つの材料とされます。
定義 | メリット・デメリット | |
機能的定義 | 提供するコトを定義 ※多くの企業はこちらを広く取りやすい (川上から川下へ、グローバル化など) | 広くとることで、将来的な事業領域の拡大可能性を 大きくとることができるが、企業のブランディングや 基本性格が曖昧になりやすい。 |
物理的定義 | 提供するモノを定義 ※多くの企業はこちらを狭くとりやすい (特定商品のプロフェッショナルとして) | 狭くとることで、何を取り扱っているかが明確になり やすく、企業ブランディングがしやすいが、その 事業領域外への進出アイデアが創出されにくい。 |
多くの企業では、機能的定義で幅広い領域を持たせ、物理的定義で的を絞る形でブランディングを強化するようなドメインの設定をしています。
それにより、取り扱う商品イメージを強くしつつも、提供する事業領域における発展可能性が高くなりますから、企業規模も拡大しやすいかと思います。
言い換えれば、製品当たりの顧客数の増加が見込めるので売りやすいという形です。
対して、今後その取り扱う製品やサービスの事業領域に、新しい技術革新などによる他業種からの参入が始まった際には、物理的定義の再定義を検討することが必要になります。
この時に、新たな領域へと家事を切れなかった、ドメインの再定義がうまくいかなかったということになると、”アメリカの鉄道会社の衰退”のように沈んて行くことになります。
ここ最近で、大きな業界再編、新たな技術革新による他業種参入による事業領域の競争激化が進んでいるところと言えば、やはり自動車業界のモビリティ化に伴う各社のドメイン再定義が挙げられます。
自動車関連部品に特化したブランディングを行ってきた企業にとっては、物理的適宜をいかに再定義するか、機能的定義の拡大や置き換えを行うのかなど、検討が必要な状況となってきています。
このように環境の変化に合わせて、適切なドメインを再定義することは企業の将来を左右する重要な要素となっています。
“ドメイン”の定義の仕方
ドメインは、”誰に”、”何を”、”どのように”で作っていくとありましたが、具体的にはそれぞれでどのような考え方で定義していくのか、簡単に説明しましょう。
”誰に”
ここでは、ターゲットとなる顧客層を定めていきます。
男の人を対象とするのか、女の人を対象にするのか?
子供を対象とするのか、大人を対象とするのか?
日本全国に住む人たちを対象とするのか、世界中の人たちを対象とするのか?
家族を対象とするのか、一人暮らしの人を対象とするのか?
このように、顧客層を細かく分類しターゲットは具体的に絞るようにしていきます。これを「市場細分化」や「セグメンテーション」と言います。そして、やり方は以下の三分類を意識してターゲットを定めていくものです。
- デモグラフィック … 社会的要因によるセグメント(年齢別、性別、世代別など)
- ジオグラフィック … 地理的要因によるセグメント(地域、都道府県別など)
- サイコグラフィック … 心理的要因によるセグメント(パーソナリティ別、ロイヤリティ別など)
特に、マーケティングでは”ペルソナ”を定めるという話を聞いたことは無いでしょうか?
22歳の理工系四大卒の男性で、まだ仕事に対しての意識は低いが、仕事が出来ないと思われることには抵抗があり、それを隠して密かに勉強はしたいと思っている。
例えば、このように細かく1人のターゲットの設定を細かく定めて商品販売やサービス提供の在り方を見ていく方法はセグメンテーションのひとつです。このように具体的なキャラ設定をしていくと、攻略の糸口も決めやすくなりませんか?
新卒者
とだけ、ターゲット設定をした状態と比べて明らかに手段が明確になりますよね。
”何を”
では、具体的にターゲット顧客層が定まったら、何を売るかです。
これは当然、その顧客層が欲しいと思うものでなければならないですよね。ようするに、顧客層のニーズ(要求)を把握することが必要です。
このニーズもただぼんやりと考えていても定まりません。セグメンテーションと一緒で層別をしていきますが、提供する製品やサービスの場合には、「プロダクト3層モデル」や「コトラーの3層モデル」と呼ばれる層別手法を使うと良いです。
- 製品の核 … 顧客が実質的に購入している基本的、中核的なベネフィット
- 製品の実体 … 実際に顧客が入手する製品を特徴づけている要素
- 製品の付随機能 … 顧客にとっての価値が高まる要素
最も重要なのが「核」です。顧客が”なぜ”それを欲しているのか、ニーズの基となるものです。
そして、その”なぜ”をどのように満たすのかが「実体」であり、他の製品との差別化を行い、価値を高めていくものが「付随機能」となります。
少しだけ話が反れますが、
マーケティングの話でAppleのCMが顧客を引き付ける理由
というものが、この3層モデルに当てはまると思っています。
何かで聞いた話ですが、一般的なCMは、「当社の製品は安心のアフターサービス(付随機能)で、高性能なスペックを有した商品で(実体)、あなたのニーズ(核)に訴求します」という流れであるのに対して、Appleでは「あなたは○○がしたい?(核)それならAppleのこの商品ならこんな高性能なスペックで(実体)、安心のアフターサービスもついている(付随機能)からそれが実現できますよ」
と、いった具合に、核を最初に持ってくる。人はWHYで購買行動を決定するため、そこを最初に訴求することで強いメッセージが伝えられるというものでした。
これは、WHY=ニーズ=製品の核であるのではないかと思います。CMなど気にして見てみると、強いメッセージを感じるものは、特にこの製品の核を意識したものになっていることが多いです。
”どのように”
最後に、”どのように”とは、販売経路を指します。”チャネル”という呼び方もしますが、どうやって商品やサービスを顧客に届けるかを考えます。
例えば、日本全国の顧客をターゲットにする商品であれば、実店舗では遠方の顧客とつながることができませんし、そもそも店舗のことを知ってもらうことも困難ですから、ネット販売を考えることになります。
このようにその顧客に知ってもらい、買ってもらい、商品やサービスを届けるためには、どのような販売経路を選択していくべきかを考えることが重要になります。
このようにマーケティングにとても重要なのがドメイン設定!
と、いうことでマーケティングの勉強を始めた上司の方の
言葉にもドメインやセグメンテーションなんて増えたのでは
ないでしょうかね?
ドメインとたった4文字の中に、そんなに色々なことが
詰まっているとは知りませんでした。。。
ただ、気になったのはやはりここでも層別が重要と。
ですです。
分析の基本は切り口、層別にあります。
QC7つ道具のひとつとしても有名ですよね。
なので、QC活動など若いうちからやっておくと
知らず知らずのうちに力が付いているものなんですよ。
まとめ
ドメイン決定の意義
ドメインを定義することで得られる効果はとても多く、経営における重要な要素となります。
- 企業の将来像を明確にすることで、各所での意思決定の統一性を図ることができる
- 対象顧客を明確にし、誰に何を売るかが明確になる
- 必要な経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)が明確になる
- コーポレート・アイデンティティが明確になることによるブランディング強化
- 従業員の業務判断上の基準となり、業務の方向性や的を絞ることにつながる
- 比較対象となる競合を絞り込み、環境分析の精度向上となる
ドメイン定義する上での重要な点
- 広すぎず、狭すぎず、適切なバランスを考えること
- ドメインは企業の目指すべき将来像となるため、慎重に検討すること
- 企業の成長に大きく影響する社内外への浸透を図ること
- 環境変化が起きた場合には、ドメインの再定義を検討すること