「うちの課はベテランが揃ってるから大丈夫」なんて
前任の課長さんから聞いていたのに、引き継いだチームが
実際には”個人商店化”していて、やり方も進捗もバラバラで…
暗黙知の進んだ組織に多い問題としてよく見られます。
昔ながらのカンコツに頼った組織などが典型的ですね。
ですが、若い人には受け入れられずに意外と不満も根強く、
ひどい場合には若手と玄人の間での衝突が表面化したりしますね。
若手たちとの面談を実施したのですが、前任のベテラン課長や
部長への不満が出てきてます。
今回の課長異動の件がなければ転職活動しようとしていたとまで。
色々と理由はありましたが、個人商店化しているからと思っています。
“個人商店化”すると、個人任せになってしまうため、
教育や標準化が疎かになりやすいですからね。
特に成熟していない若手にとっては、困っていても助けてもらえず
とても苦しく感じる状況に陥りやすいため、ケアが必要ですね。
“個人商店化”の背景
課長さんに詳しく話を聞いてみると、その課は10~15年も専任で担当してきた設計者がゴロゴロといる組織。課員の50%が40代のベテランで、25%が30代中盤、残り25%がようやく仕事を覚えてきた30歳手前の若手。
そして、前任課長もその道25年のプレーヤーであり、とても優秀な方で所属していた課一筋でやってこられた方でした。ベテラン組織で安定しているはず、なのに状況が芳しくない。よく分からないけど何かが上手く回っていないがベテラン組織過ぎて上層も細かい状況が把握できない。どうしたもんかということで、別プロジェクトからのお誘いで前任課長の異動の機会もあったことから、畑違いの業務をしていた課長さんを入れてみたというのが背景。
実はこれがミソ!
変革することは慣れもあるのでなかなか難しいものです。
経験のない人を入れることで変革のきっかけとしやすくなります。
そして、受け入れられるかが腕の見せ所ですね。
今回の組織の具体的な状況は、担当者のスキルが高いため各担当者が一人で受け持ちの業務を推進している。担当者たちから課長への報告はほとんどなく、課長もそれで良しとしていた。
理由を窺うと、前任課長はフォローするときだけ各担当に話を聞けば、あとは自分で処理ができてしまうほど経験豊富で優秀なプレーヤーであったため、管理は一切なく個人の裁量と技術だけで乗り切るスタイルの組織でした。
そしてなにより、前任課長がそういったスタイルを取っている一番の理由は”管理より実務が好き”。
でも、こういう課長さんの方が多いですよね。
あるべき姿
改善の基本は、あるべき姿と現状のギャップを問題点として捉え、あるべき姿に到達するための改善のポイントを定め、段階を追って進められるように中間点を設ける。KGIとKPIの設定とPDCAサイクルの管理によって進めることが基本です。
例えば、フリーハンドで直線を引くときに、中間点を打っておいた方が最終地点でのズレが少ないですよね?KPIの設定とPDCAサイクルを回した管理は最終地点に到達したときのズレを小さくします。
これらのやり方は他の記事で整理していますので、参考にしてください。
それでは、この場合の組織のあるべき姿はどうでしょう?
どういった組織にすることが正解だと思いますか?
- 上司によって徹底的に業務管理された組織?
- 標準化がすすめられ、若手でも業務推進ができる組織?
- 仲が良く一緒に楽しく業務できる組織?
- それとも、このまま個人技能を突き詰めていく組織?
これらどれもが素晴らしい点と足りない点があり、合う場合と合わない場合があります。
例えば、上司に徹底的に管理された組織では、標準化により業務が効率化され、若手でも一定の業務が推進できますが、進み過ぎると新しい発見や技能の発展はなく、陳腐化により競争力衰退していくことにもなり兼ねません。
反対に、個人技能を高めていく自由度の高い組織では、新しい発見や開発が進みやすくなります。ですが、自由度が高すぎると、今回のような個人商店化を引き起こす原因ともなります。
その組織にあった管理をしていくことがマネジメントであり、日々成長できる組織としていくのがナレッジマネジメントと呼ばれる考え方になります。
今回の”個人商店化”については、マネジメントの考え方として、このナレッジマネジメントに注目して改善の対応を考えていきます。
ナレッジマネジメントとは
有名なのはSECIモデル(セキモデル)と呼ばれるものです。
組織の技能を暗黙知化と形式知化を繰り返しながら底上げして高めていくというものになります。
簡単に説明をすると、各自の暗黙知としてある知識を表出化して整理して標準化することで、全員の技術レベルを高いレベルで統一させることができます。しかし、それをそのままにしておくと技術力は更なる向上をしません。
そこで、標準化した技術を各自の中で習熟し、内面化していきつつ、他の業務に転用したり、他の技術とくっつけてみたりといった連結化が生じます。この状態が暗黙知として各自の中で高度かしていく技術となります。
そうすると、また各自の処理技術力に差が生じてきますので、標準化して全体を高めてと繰り返していく。このように技術や経験といった知識を管理して高度化させることがナレッジマネジメントです。
とはいえ、まずは人間関係の構築が重要
ただ、マネジメント知識があっても、お互いの人間関係が悪ければ上手くいくものも上手くいきません。
人と人の関係性構築はマネジメントのもっとも重要なところになりますので、知識を入れて頭でっかちのマネジメントでは誰もついてきてくれません。一緒に成長していくことを意識し、尊重、尊敬の気持ちを持って部下たちと接することが大切です。
そのためにはまず、相手のことを知り、自分のことを知ってもらうことから始める必要があります。担当者たちとの立ち位置の確認や、その課の受け持つ仕事の内容、それぞれの人柄なんかも含めて確認しておくことも重要ですが、反対に自分のことも知ってもらって、お互いの間の警戒をほぐすことです。
人間だれしも自分のテリトリーを侵されることには強い抵抗が出ます。いくら”あなたたちのため”だと改善を進めても、警戒が強い間は上手くいかないものです。まずは、仲間だという認めてもらうことが必要です。
そして仲間だと認めてもらうために重要なのは、
- 上司だからではなく、意欲的に働き学ぶ姿勢
- ベテランはもちろん、新人でも自分より専門的な知識のある部分に対して素直に尊敬する
- 絶対に成功させるという強い意志を持ち、言葉にして共有する
- よく話し、よく笑い、コミュニケーションをしっかりとる
- そして、自分がそのチームの一員であることを強く意識する
組織として大切な「共通目標」、「協働意欲」、「コミュニケーション」。
ここでも出てきましたが、組織に属する場合、管理する場合、どんな時でも
この3つが機能している組織は上手くいくものです。
覚えておきましょう!
これらを進めるために重要な力が「リーダーシップ」です。
「リーダーシップ」は生来持つ特性ではなく、身に付けるものと言われています。組織の状態に合わせた対応をどう取るか、そちらについて整理した記事もありますので、参考にどうぞ。
問題抽出へのアプローチ
お互いの間の警戒が薄まってきたころから、徐々に問題の原因を探り、改善の糸口を見付けるように活動を始めます。
今回は、それぞれのメンバーと面談をしながら、困りごとや組織の問題として感じていることなどをざっくばらんに聞くとともに、それぞれのキャリアプランなども聞きながら、組織をどう作り上げていくかの構想の素を集めるところから始めてもらいました。
管理職の方に意識してほしいのは、チームの一員であり、絶対に成功させてやるという強い意識で取り組みはしますが、いずれ自分はこの組織の管理者ではなくなるという意識をもつことです。
自身が管理して回る組織では、自身が抜けた時に崩れてしまう可能性があるということです。代わりの誰かが自身と同じように経験を積んだ状態でくるとは限りませんし、自身が数年そこで経験したものを持たない状態でやってきます。それでも崩れない環境に整える必要があります。
ですから、それぞれの担当者のキャリアプランは都度確認しながら石垣を組み上げるように、少しずつ土台を固めていく意識で組織を作りながら、時々に応じたマネジメントができる体制を仕上げるイメージが大切です。
見付けた問題
では、面談などを通じて見付けた問題は何でしたか?
チームメンバーから吸い上げた困りごとや問題意識をまとめた結果、
キーワードは『忙しい』でした。
担当者たちが忙しい
↓
課長は仕事を担当者たちに割り振れない(あふれた仕事がある)
↓
課長も実務をすることになり忙しくなってくる
↓
部長への報告などの業務を後回しにし、目の前の実務を処理することを優先
↓
部長に報告が上がらず、忙しく回らないことが把握できず手が打てていない
↓
担当者たちは仕事の仕方や相談をしたいが、課長も同僚も忙しく相談できない
↓
自分たちでがんばってみるが、忙しいので遅れやミス、トラブルにつながってしまう
↓
もっと忙しくなっていく
このようなサイクルにより、悪化が進行していることが分かりました。
また、スキルレベル的に高難度なものを課長自らやることも多く、
特に前任課長は忙しい状況にあったようです。
結果的に、自分で何とかする個人商店化が進んでたみたいですね。
そして、A課長自身忙しい中でも実務を処理し、いくつものトラブルを解決していることで満足感を得てしまっており、課全体の悪さを認識していないことが一番の悪さの原因でした。
多忙は怠惰の隠れ蓑
と、いう言葉もひと時流行りましたが、これもその典型でした。
忙しい忙しいと、目先の事柄にとらわれ、本来やるべきことが行えていない状況は、怠けてやるべきことをやっていないのと結果的には同じ状況に陥ります。
解決の方向性
結局、前任課長は「うちの課はベテランが揃っているから」と、個人プレーに対しての危機感を持っていなかったのですが、現場の担当者たちは、「困っているけれども助けてくれる人がいない」状態。助けを求めて手を伸ばしているのですが、誰も手を掴んであげられる人が周りにおらず、孤立した状況に苦しみ、モチベーションが下がり、「なんだかうまくいってない」のでした。
そして、この状態はSECIモデルに当てはめると、暗黙知が進み過ぎて担当者間のスキルレベルに大きな差が生じてしまっている状態でもありました。
このような状態ですと、ベテランと中堅、若手で処理できる業務量や質に大きな差があります。
そこで課題は、(1)困っているときに相談できる関係性の構築、(2)形式知化を進めて全体の業務処理レベルの引き上げ、(3)管理面の強化、の3点を挙げ、3つのことに取り組むようにしました。
①ベテランと若手がペアを組むこと
このペア制では、自分の仕事の主担当はそのまま継続しますが、ペア相手の仕事に対して副担当も行うこととします。
主担当は副担当をメール配信の宛先に追加、そして関係者からの連絡もメインは主担当に入れて頂くのですが、メールであればCcに副担当を入れてもらうように広く周知していきます。
顧客との会議と社内の会議が重なってしまったときなどには、これまではどちらかを欠席したり延期するなどの対応をしていたところを、副担当が片方に参加することで、時間的な余裕を作ることなどが副担当の主な仕事となります。
サポートをしてもらうためには必要な情報の共有がありますが、お互いに副担当のときにどういう情報が欲しいかを経験することで、きちんと相応の情報を共有することの必要性を身をもって経験として持っていきます。
②標準化すること
これまでは、相談できないことから隣同士に座っているにも関わらず、帳票の書き方や使う資料のフォーマットなどがオリジナリティに富んでいました。
ガラパゴス化ともいうのでしょうか、お互いがバラバラの仕事の仕方ではサポートの難易度は格段に上がりますから、帳票の書き方などのルールのたたき台を私が作り、徐々に自分たちで使いながら共通のやり方やフォームを作り上げてもらいました。
与えられたものより、自分たちで作ったルールであるほど守る意識も強まりますし、自分たちで改善したという自信にもつながりますから、必ず活動の最後の美味しいところは全て担当者たちに与えます。
これが、長期的にこの組織が自分たちで改善を繰り返し、より良い組織を維持していくことにつながります。
③課長には担当業務をさせない!
ここが一番苦しいところですが、組織管理をしていく上で管理者がプレイヤーに専念してしまっている状況が最も状況を悪化させる原因となります。プレイングマネージャーの主はマネジメントであり、プレイヤーは副であるべきと私は考えます。
ですが、これまでプレイヤーとして評価を得てきて、担当業務が好きという監督者にとっては、禁煙やダイエットと一緒で、担当業務を取り上げると禁断症状にも似たとても苦しい状況に陥ります。
今の自分の高評価につながる実績を封印し、新たなステージで戦うこと、また実務が大好きなのにやれないことというのはとても辛いものがあります。また、トラブル解決も自分でやればすぐに終わるのにと、もどかしくもあり、苦しい状況が数ヶ月続きます。
今回、前任課長は異動していなくなってしまいましたので、後を継ぐ課長さんには担当業務を持たせないようにして、この苦しい状況に耐えてもらいました。そして、部長さんにもその間は、あまり批判を言わないように釘を刺し、実務をせずにまだまだ未熟な管理で勝負している状況を少しでも褒めるようにお願いをしました。
監督者になり、役職が上がるにつれて求められるものが高度となると、相談する相手も減り、孤独との戦いも始まります。特に課長は、これまでの担当者とは大きくステージが変わるポイントですから、そこは部長さんたち上層がサポートをしてあげることがとても大切になってきます。
課長に必要なマネジメント
部下に対するマネジメント
課長は課のメンバーの取りまとめ役です。
一人で難局を乗り切るのはとても辛く、苦しいことであることを理解し、チーム内でサポートし合える状況を作り出すこと、そして自分がメンバーを導いてあげる意識が大切です。
そのためにも、マネジメントとして一番重要なのが、上とも下ともコミュニケーションをしっかりと取り、適切な対応がとれるような状況を作り出すことが必要ですし、あまりにも自分が忙しい状況で、みんなの業務環境を整えてあげられないようではいけません。
課長に対するマネジメント
そして、課長はこれまでのプレーヤ-からマネージャーへとステージを変化させていく大切な時期であり、とても苦しい時期になります。
そして、課長も同様に一人で難局を乗り切るのはとても辛く、苦しいものになります。
立場上、一緒に並走してくれるサポーターもいなくなる中ですから、ここで部長ら上層の方々が、きちんと課長の活動にも目を向け、サポートしてあげることも部として、会社として組織全体を良い方向に導くためにはとても重要になってきます。
まとめ
どのポジションでも一人で戦うことはとても大変です。
会社という組織であるメリットを活かし、チームとして支え合って活動をできるように環境を作ること、そしてそれをコントロールすることがマネジメント層には必要です。
そのためにもチーム内のコミュニケーション向上を図り、よりチームメンバーが働きやすい、良い環境を作っていくことが組織の管理を成功させる近道になります。
そして、個人商店化はミスやトラブル発生時の対処が難しく、特にインフルエンザや家族の病気などでも自分がやるしかないという環境となるため、休みも取れず潰れてしまうことにもなりかねません。
自分が休んでも誰かが助けてくれるという安心感は、従業員満足度の向上につながり、精神的な余裕につながります。
すると、電話応対が柔らかくなり、顧客とのトラブルが回避できたり、視野が広くなり間違いを見付けやすくなるなど業務品質も各段に高くなります。
これが課長が行うべきマネジメントであり、成果を最大化する秘訣になります。