年度末が近づき、昇進の話題や春取りも大詰めの時期が近くなってきましたが、こういった時期には”評価”についての疑問や不満も出てきやすくなります。
ですが、評価する側、評価される側どちらにも誤解をしている点が見られます。
その中でも特に、『成果や実績だけでなく、プロセスを評価してほしい』、『今期はこんなに努力をしてきたから評価してほしい』などのプロセス評価についての誤解が特に気になりますので、少し整理をしていきます。
なんで隣の部署のAさんの方が仕事してないのに
自分の評価よりいいの?納得いかない!
自分の方がやってるのに!
そんな自己評価と上司の評価の乖離による不満、
よく耳にしますよね?
今回はそんな評価の乖離をなくすための話です。
“評価”基準の変遷
まず、プロセス評価に入る前に、評価基準の変遷について整理しておくと、このあとの話が分かりやすいかと思います。
高度成長期の評価基準
高度成長期にはご存知の通り、工業化社会で技術の発展が目覚ましい時期にありました。
このころは、技術の時代ですから、経験により技能を習熟させられるという考えに基づき、年功序列などの年功制度が取られてきました。
社歴や年齢、学歴といったように、経験を積むことでより能力が磨き上げられ、高度が仕事ができる、成果を出すことができるような技術が仕事を多くを占める時代です。
当然、仕事量や質と経験が比例の関係にありますから、年功制度がとてもしっくりとくる評価基準となっていました。まだまだこの評価制度を維持している企業も多いのではないでしょうか?
安定成長期の評価基準
平成の時代に入ると、徐々に情報化社会へと移ってきます。
新しい情報をより多く入手し、整理し、取捨選択することで、より高度な仕事ができる、成果を出すことができるという時代です。
徐々に仕事量や質と経験の比例関係が弱くなってきて、時代の変化を感じ取る能力や情報を整理する能力など、教育や学習により習得できる能力との関係が強くなってきました。
すると、企業の評価には能力主義が導入されるようになります。
別の呼び方だと、「職能資格制度」とも言われますが、こういった能力や資格を有していれば、これくらいの役職の仕事ができるだろうという仮定で能力を判断します。
このように教育や学習の大切さが徐々に出てきたこともあり、OJTなどの言葉がよく聞かれるようになってきたのもこの頃ですし、QC活動の変遷にもあったようにボトムアップ型で、自主的な現場改善活動から、トップダウン型の教育活動に変わってきた時代ともマッチします。
QC活動についての記事はこちら⇩
現在の評価基準
そして、平成の時代後半から令和の時代へと変わってくると、成果主義と言われる評価基準を掲げる企業も多くなってきました。
能力主義的な評価では、『課長ならこれくらいの仕事ができるから、基本給は40万円』と、いうような形だったわけですが、その通りに成果が出る人と出ない人が出てきます。
係長で優秀だったので課長に上げたが、ステージが変われば見るべきポイントや要求される能力も違いますので、係長では優秀だったかもしれませんが、課長でも優秀であるとは限りません。
しかし、課長は課長ですから、同じ課長で給料ベースは同じなのに仕事量や質には大きな差が生じているケースはよく見られるかと思います。
そういった状況に対して、きちんと成果が出たことに対して評価していこうじゃないか、という企業が増え始めているのが現在になります。
“プロセス評価”に対する間違い
このような流れの中、新たに取り入れられ始めた成果主義にもまだまだ大きな課題があります。
個々の目標の高い低いといった差による影響、外部環境の変化や内部環境の変化により達成できなかった場合の評価が下がってしまうといった影響などがそうです。
そのため、成果だけではなくて、そのプロセスも評価してほしいという要望につながるのです。
業績が悪い会社ほど成果が出なかったわけですから、プロセス評価を来期の給与アップに向けたベアや一時金の交渉材料に掲げて春闘でたたかっている組合が多いように思います。
『私たちは、今期こんなことを1年がんばってきた。これに対する評価やヒトへの投資として要求するベアや一時金の満額回答を!』
みたいな要求になるのですが、ちょっとずれてしまっていることにより、まず満額回答がもらえないだろうと感じる交渉もちらほら見られます。
ポイント①成果がなければ原資がない
まず、営利企業である以上、利益がなければ経営が成り立ちません。
給料が少なく、家計が赤字であれば食費や光熱費を削る生活をするように、企業も利益が少なく赤字経営であれば、ヒトやモノへの支払を削らなければやっていけないのは当然です。
そのため、成果が出ていない中でプロセス評価だけを求めるても、原資となるお金が成果としてあがっていないわけですから、払えないというところで交渉が難航します。
ポイント②プロセスの方向性のズレ
企業理念に沿った現場のアクションプランが重要になります。
『現場がこれだけ努力しているのに成果が出ないのは経営層の責任だ!』
などということを言う人もいらっしゃいますが、そもそも企業理念や戦略と異なるアクションプランを立てて行動しているのであれば、方向性を間違えているため評価されません。
明日、英語のテストがあるのに、国語の勉強を一生懸命やっていたようなものです。
当然、テストの点数は散々でしたが、がんばって勉強してきたのだから合格にしてほしい。
こういう話と同じことです。
“評価”への正しい理解
これらの間違ったプロセス評価への理解が、評価する側にも評価される側にもあるため、よく分からない交渉が行われ、疑問や不満でモチベーションを下げることにもなっています。
まずは、お互いに正しい評価基準について知ることがとても大切です。
理解のポイント①プロセス評価
プロセス評価は、会社理念や経営方針といった上位方針に沿った流れで仕事をすることが遵守されているかを見るものです。
1億円の利益を出す目標に対して、違法性のある活動で一時的な利益を出してもいけませんよね?
その後の信頼失墜などにより経営危機につながることにもなります。正しい会社のあるべき方向性で活動して結果が得られたかを見るのがプロセス評価の正しい姿です。
理解のポイント②成果評価
会社の進むべき方向性をきちんと理解し、それに沿った活動が行われたが目標に到達しなかったのであれば、内外の環境変化や経営層の見込みの甘さなどの上位における問題が考えられます。
そういった中で、成果が出ていないからダメという判定もおかしいですよね?
当然成果はとても大事になりますが、計画通りにやっても出ない成果が目標として設定されていたのであれば、それはその目標を設定した上位層の問題となります。
改めて、その目標がどの程度達成できたはずかを見直し、評価をしていくことがとても大切になります。
理解のポイント③成果主義とは成果とプロセス両方で評価する
①、②で分かるように、成果とプロセスはどちらかだけで評価できるものではありません。
まず、当初立てた目標の妥当性についてどうだったかを、目標を立てた際に用いた条件と最終的な内外の環境や各活動の状況などを比較して確認、評価します。
そして、その見直した目標に対して最終的な実績がどうであったかを比べます。
達成、未達成に関わらずその実績に辿り着いた活動の足跡をたどってみた時に、経営理念や経営方針に合致していたかを確認します。
目標の達成度合いとプロセスの両方の観点から、現場の活動が正しく行われたか、自分たち経営層や管理層の活動がどうであったかを評価していきます。
これが、正しい成果評価であり、プロセス評価のあるべき姿となります。
まとめ
先ほどの例にあった、労働組合と会社との労使交渉では、売り上げが厳しいとなると会社側はできるだけベースアップを行わない方向へ持っていきたいでしょう。
そんな中で、がんばった見返りとしてベースアップを勝ち取りたい労働組合側。今期1年の組合員の努力をアピールするにしても、こういった正しい評価基準や背景を知らずに、ただ「がんばった」というアピールをしても何も経営層には響きません。
きちんと正しいプロセスでこれだけの努力をしたが成果に結びつかなかった。これは、組合員の責任ではなく、経営や環境の問題であることだ。
と、いう方向性で訴える方が、がんばりを正確に伝え、同じ基準で会社側も見られるようになります。そして、そのアピールをする場合、客観的に評価ができるように数字で示すことなども重要です。
当然、評価する側こそ理解しているのといないのとでは、最終的な実績に至るプロセスの管理に大きな差が生じます。生産性を上げるためにも、部下との認識を合わせるためにも評価基準を定めて共有することが重要です。
どう現場の活動プロセスをコントロールするかに考えることで、より大きな実績につながる活動となりますので、ぜひ活動の参考にしてみてください。
と、主任さんの個人的な相談から、労使間の大きな話へと
大きく反れてしまいました。
主任さんの場合は、どうすれば評価につながるか整理しましょう。
主任さんの上司である監督者も会社側の立場にある方々です。であれば、労使間の考え方と結局は同じことで、上司の目指す方向性を理解し成果を出すこと、そしてそのがんばりを正確に伝えることです。
方向性を理解する
あなたが考える方向性が上司と違うとしても、会社のベクトルに合わなければ効果が出たとしても評価につながりにくいものです。
きちんと違う道を示したいのであれば、上司の考えに対して理解を示しつつも自身の考えの方が有益であることを具体的に説明し、納得を得る必要があります。これがなかなか納得できない方が多くいらっしゃいます。その気持ちもよく分かります。
ですが、あなたに部下ができました。自分よりも経験の浅い部下です。経験とは、実務だけでなく幅広い社会経験や関連知識など幅広いものを指します。そんな部下が、あなたが”こうすべきだ”という考えに納得せず、黙って違うやり方で進めています。
このような状況を考えた時にあなたはどう評価しますか?
「素晴らしい」と、評価するでしょうか?あなたはあなたのやり方がベストではないかもしれないにせよ、より良い方法だと思っているからその方法を取ったはずです。その方法を取らない部下に対して最上の評価はしませんよね?
では、この部下があなたのやり方でやってみたが問題があることを発見し、改善提案をしてきました。その改善案を聞いて、あなたが納得できた場合はどうでしょう?「素晴らしい」と評価しますよね?
上司も一緒です。あなたの評価を上げるには、あなたが上司の立場に立ったときのことを考えてみてください。
評価の誤解を避ける
もう一つ、がんばりを正確に伝えることの方法は、数字として結果を整理して報告することが重要です。あいまいな表現での評価は、自身の達成度合いと評価者の達成度合いに理解の差を生みます。
「大きく利益率が改善しました。」
と、報告しても、それが1%なのか10%なのか、100%なのかは人それぞれです。
具体的に、「10%の利益改善に貢献しました。」
と、報告することが誤解を避けるためには必要です。あいまいな表現はお互いの誤解を生み、誤解は不満につながりやすいものですし、ムダな衝突にもつながりやすいものです。
そういったムダな誤解を避けるためにも数字を意識した報告や相談、上司の指示に対する確認を行うことで、最終的な評価の誤解を避けることができますし、当然上司の指示に対する誤解が避けられますから成果も上がりやすくなります。
やっぱり人間関係
好き嫌いで評価しているなんて愚痴もよく聞きますが、結局のところ人と人との関係性が重要です。関係性が良ければ、それだけお互いの誤解も少なく、コミュニケーションも頻繁で協働意欲も高い状態にあると考えられます。共通目的・協働意欲・コミュニケーションは組織の三現則です。
これらが高い状態にある組織は、成果も高く出ます。そのため、評価も高くなるのは当然ですし、そうした良好な関係は周囲に対しても良い影響をもたらします。狭い範囲で成果の大小を比べてはならず、会社全体にとっての大きな成果につながる人材の方が評価がしやすい。
そうしたことも理解し、個での成果を追うだけではなく、会社組織として成果についても考えること。それが重要ですし、その能力が今後組織を束ねる立場になったときに必要とされる能力であることが理解できると、評価は一気に上がると思います。