人材育成の一環で部下にPL法を教育するように
指示されてしまったのですが、
実は私もよく分かってないんですよ…。
法律関係は知らないと大きなトラブルに発展することにも
なりかねませんから、教育しておくことは大切ですよね。
ですが、ポイントだけ理解させ、何かあったときに自分で
ちょっと調べられる程度に知識に入れて上げられればOKです。
昨今、多くの企業で人材育成などを進める中で、自社の経験や知識だけでなく、法規制などについても教育を行うところが増えてきていますね。ここ数年で、2次下請けなどの中小企業でもこういった教育を進めるように顧客からの下請監査や指導を通じて、求められるケースも増えてきているようです。
かといって、法規制をしっかり理解することは大変です。
後々、何か気になるところがあったときに、インターネット等で自身で調べられる気付きを与える程度の教育を行っておけば、ひとまずはOKと思います。
また、重大な問題に発展する可能性があるところについて、予防線を張る意味でもポイントを押さえておけばさらに良いと思います。
と、いうことで、今回は製造業では特に気になる「製造物責任法(PL法)」について簡単に整理をしていきます。
製造物責任法(PL法)とは
製造物責任法(PL法)が制定された目的は、
製造物の欠陥により、人の生命・身体・財産に関わる被害、これを拡大損害と呼びますが、この拡大損害が生じた場合に、消費者とメーカーなどの間に直接の契約関係がなくても、商品の欠陥という要件のみで、メーカーの損害賠償責任の追及を可能にすることで被害者の保護を図ろうとする法律です。
このとき、メーカー側に対する故意や過失の立証も不要となっているところが大きなポイントです。
故意は、「わざと」「悪意をもって」「事故につながる認識をもって」。
過失は、「うっかり」「事故につながる認識がなく」。
と、いう意味です。
なぜ、このような法律ができたかの背景ですが、この法律ができるまでは、製造物の欠陥により消費者が拡大損害を被ったとしても、その製造物の欠陥を特定し、契約責任を追及することが難しい状況でした。理由は、製造したメーカーと購入した消費者の間には、小売店や卸売店、1次メーカーや2次メーカーといったように複数の企業があるため、製造メーカーの故意、過失の立証が難しかったためです。
この故意、過失、つまり製造物の欠陥を知っていて販売したのかを証明する必要があったのですが、消費者がそれを確認することはとても労力や費用、時間を要することから泣き寝入りするケースがおおくあったのです。
そのため、この法律を作り、製品に欠陥があったという事実と、拡大損害の証明ができれば、製造メーカーに対して責任追及ができるようにしたということです。
具体的な例では、
ドライヤーを購入し、髪を乾かしていたところドライヤー本体が爆発して頭部に大きなケガを負ってしまった、火が出て家が燃えてしまったといったような場合です。このケガや火事が起きた事実と、そのドライヤーが欠陥品であったことが証明できれば、直接メーカーに対しての責任追及ができてしまうのです。
製造物責任法(PL法)の内容
目的を知っていればOKですが、具体的にどのように法律上定義がされているかもサラッと教育しておくと良いと思います。ただ私の経験上、受講者がもっとも眠そうにされているのがこの範囲です。この内容を聞き始めて徐々に頭の中が付いていけずにスリープモードへと移行されていくので、時間がないようであれば、この部分は飛ばしてしまうというのも良いかと思います。
製造物責任法(PL法)の対象物
製造物責任法(PL法)では、製造物を「製造または加工された動産」と定義しており、大量生産、大量消費されることを前提に生み出された工業製品等を対象にしています。したがって、役務(サービス)等の無体物、不動産、未加工の農水産物は対象となりません。
製造物責任法(PL法)における欠陥
製造物の欠陥とは、「製造物が通常有するべき安全性を欠いている」と定義されています。
安全性の判断は、
- 製造物の特性
- 通常予見できる使用形態
- 引き渡し時期
等を考慮して行われます。
そして、この欠陥には3つの類型(いわゆる区分)があります。
- 設計上の欠陥 … 設計時点での欠陥
- 製造上の欠陥 … 設計通り製造がされなかったことによる欠陥
- 指示・警告上の欠陥 … 危険性を取扱説明書や警告ラベルの貼り付け等で消費者へ知らせることを怠ったことによる欠陥
と、いうことで、製造物責任法という名前ですが、製品開発、製品設計や工程設計など製造現場以外の部門でも知っておくべき法律なのです。
製造業者の範囲
想像業者の範囲では、製造物責任法(PL法)にて責任を負う製造業者は製造をしている企業だけではないということにも注意が必要です。具体的には、以下の3つが範囲としてあげられています。
- 製造物を製造、加工又は輸入した者
- 製造業者として製造物に氏名、商号、商標その他の明示をした者、又は製造業者と認識させるような氏名等の表示をした者
- 製造、加工、輸入又は販売その他の事情から製造物の実質的な製造業者と認められる者
と、いうことで、製造している製品に対して責任を負うのは、購入してきた製品を加工したり、輸入した場合にも責任を問われる可能性がありますし、外注で作ってもらっている製品についても責任を負うこともあります。
先の項では、設計もこの法律を知っておく必要がありますよ。と、書きましたが、購買・調達、品質管理などの部門でも知っておくべき法律になります。
損害賠償の請求権
目的のところでも書きましたが、
製造物の欠陥により、人の生命・身体・財産に関わる被害、これを拡大損害と呼びますが、この拡大損害が生じた場合に、消費者とメーカーなどの間に直接の契約関係がなくても、商品の欠陥という要件のみで、メーカーの損害賠償責任の追及を可能にするのが、製造物責任法(PL法)です。
あくまでも、製品の不良だけでは請求することはできず、ケガをしたり財産が壊れたりといった、拡大損害の発生も必要です。
免責事由
免責とは、責任追及を受けた際に責任を逃れられるケースです。
- 製造物を引き渡した時期の科学技術の水準では、欠陥があることを認識できなかった場合。「開発危険の抗弁(=法的な責任を逃れる事由)」
- 製造業者の設計に関する指示に従って、部品や材料を提供し、かつその完成品の欠陥につき過失がない業者である場合。「部品・原材料の製造業者に対する免責」
顧客の設計図、製造指示に基づいて製品を作っており、その指示通りの品質を確保し、顧客の承認を受けた製品を納めているような製造業では、2の内容で免責となるケースがあります。
ただし、その場合に必要なこともありますので、それはこのあとの製造部品メーカーの例や抑えるべきポイントとして説明していきます。
責任期間の制限
責任期間、いわゆる時効です。
- 被害者又はその法定代理人が損害及び賠償義務者を知った時から3年間請求を行使しない時
- 製造業者等が製造物を引き渡して10年経過した時
ただし、薬害のように被害が明らかになるまでに相当な時間のあるものは、損害発生時点から起算されます。
製造部品メーカーの例
ここからは具体的に製造部品メーカーの例で見てみます。最終消費者とは距離のある製造メーカーですが、どのような責任があり、どのような場合にその責任が免除されるかを知ることで、免責を受けるためにどのようなことに気を付けて日々の業務をするべきかを整理していきます。
では、納品する先の完成品メーカーからの設計に関しての支持を受け、それに従い部品を作った場合でも製造物責任法(PL法)に問われるのでしょうか?
そうです、先ほどにも説明がありましたが、責任に問われます。しかし、完成品メーカーの設計に関する指示に従ったこと、故意や過失がないことを主張立証することで免責される。でしたね。
部品メーカーのPL責任
部品メーカーにおける責任は、先ほどから出ているように責任を負います。しかし、部品メーカーは完成品メーカーの設計に関する指示に従わなければならないことが多く、そのために部品に欠陥が生じる場合もあります。
そのような場合にまで、部品メーカーの責任を問うことは酷であるため、製造物責任法(PL法)では、「当該製造物が、他の製造物の部品または原材料として使用された場合において、その欠陥が専ら当該他の製造物の製造業者が行った設計に関する指示に従ったことにより生じ、かつ、その欠陥が生じたことにつき過失がないこと。」を証明した時は、部品等の製造業者が製造物責任法(PL法)における責任を負わないと定められています。
部品メーカーの免責
そして、免責されるための要件は4つあげられています。
- その製品が、他の製造物の部品または原材料として使用された場合であること。
部品、原材料であるか否かは、部品、原材料として「取引」されたか否かではなく、実際に部品、原材料として「使用」されたか否かによって判断されます。 - 欠陥が完成品メーカーの「設計に関する指示」により生じたこと。
ここでいう「指示」とは、設計自身を指定する内容など、部品等の設計を具体的に拘束するものであることが必要です。指示の方法については限定されません。設計図自体を示す場合や、特定の構造を指定する等、製造物の特性に応じて様々な指示があり得るからです。 - 欠陥が「専ら」設計に関する指示によって生じたこと。
完成品メーカーの設計に関する指示が、欠陥の原因のすべてである必要はありませんが、欠陥の主要な原因をなしていることが必要です。したがって、欠陥の原因が完成品メーカーの「指示」以外にもある場合は、欠陥に寄与した割合も考慮されることになります。 - 欠陥が生じたことについて部品メーカーに過失がないこと。
設計に関する指示によって欠陥が生じたとしても、部品メーカーに過失がある場合は、免責とは認められません。たとえば、指示に従えば欠陥が生じることを予見できたにもかかわらず指示に従った場合や、欠陥を回避することができたにもかかわらず、これをしなかった場合等には、部品メーカーも責任を負うことになります。
過失の存否については、製造業者の契約上の地位、製造物に関する技術的水準、製造の際の状況等を総合して判断され、過失がなかったことは部品メーカー側が立証する必要があります。
対応策
これら、免責の条件の中で重要なポイントが「過失がなかったことの立証」になります。部品メーカー側で行う必要がありますので、普段から完成品メーカーの設計に関する指示の証拠がないなどの場合には、当然立証が難しくなります。
ですから、顧客の設計に関する指示を受けて製造していたとしても、これをやると欠陥につながらないことを考え、欠陥につながりそうであれば、きちんと顧客に対して問題を提言することがとても大切になります。そして、その提言したことを証拠として残すことです。
設計検討段階のやりとりは、担当者間で行われることが多いでしょう。その際、電話や打ち合わせの場で口頭でのやりとりとなってしまっているケースが少なくありません。
そこで重要になるのが、口頭でのやりとりのあとで、メールや議事録などの証拠として残るものを取り交わすことです。議事録などでサインを断る顧客も実際にいらっしゃいます。それでも、メール等で、社内への展開のために確認したいのですが、とメールなどでやり取りの内容を相手に送り、「相違があるようであればご連絡いただけますと助かります。」などと連絡することでも自分や会社を守ることができます。
まとめ
消費者とは接点がなく、完成品を作っていないような部品メーカーでも製造物責任法(PL法)に問われる可能性があります。
その際、「欠陥が完成品メーカーの設計に関する指示で発生したと言えること」、「欠陥が生じたことに対して部品メーカー側に過失がないこと」を立証することで免責されます。
これらを立証するために大切なのが、証拠を残すことです。一般にエビデンスとも呼ばれますが、口頭でのやりとりで終わらせず、欠陥につながる可能性の提言や、顧客からの設計に関する指示で製造したと言えるような状況は、メールや議事録に残すことが望ましいです。
なかなか議事録を作ったり、電話等で話をした内容を改めてメールで連絡するといった行為は面倒であったり、相手に失礼に当たらないかと気にされるかもしれません。ですが、製造物責任法(PL法)に抵触するような大きなトラブルに発展した場合には、会社がなくなる可能性も秘めた大きな損害にもつながります。きちんと、証拠を残すためにも議事録の作成やメールでのやりとりなど、エビデンスを残すことを教育の締めくくりとされると良いのではないでしょうか?